『となりのトトロ』からみる、「本当の豊かさ」とは。
トトロは僕らの心の故郷なのかもしれない。
宮﨑駿監督の代表作である『となりのトトロ』。
作品を通して表現されているのは、美しい日本の自然だ。ひとつひとつのシーンを見ても、田園風景や草木の細かな揺れなど、とても丁寧に描かれていることがわかる。
それらは、見る者をどこか懐かしい気持ちにさせ、私たち日本人を「心の故郷」へと誘ってくれる。
まだテレビが普及する前の東京郊外を舞台に、そこに引っ越してきた姉妹と、森に住む不思議なおばけ「トトロ」との交流を描いた本作。
自然をキャラクター化した存在とも言える「トトロ」は、本来あるべき人と自然の関係性を、私たちに思い出させてくれる。
日本人は古くから、自然との境界線を意識し、自然を人間世界とは違う異界と捉えてきた。
そのようにして、自然との共生を果たしてきたのである。
映画のなかで、「トトロ」の住む森にそびえ立つクスノキに、家族で挨拶をするシーンがあるが、ここからは自然を信仰の対象とする日本古来の宗教観が伺える。
『となりのトトロ』というタイトルにも、日本人がすぐ側にある自然を敬いながら、共生してきたことが表現されている。
この作品で、宮﨑駿監督が伝えたかったこと。
それは子どもたちが「トトロ」に出会うこと、つまり自然との触れ合いの重要性だ。
また、大人にとっては、誰もが経験した子ども時代の思いを忘れてはいけない、というメッセージが、作品全体から読み取れる。
そのメッセージは、どの時代どの地域においても通じるものである。
めまぐるしく変化する現代社会において、日本人が忘れかけていた「本当の豊かさ」を思い出させてくれる。
そんな『となりのトトロ』が、子どもにとっても大人にとっても、日本人が今見るべき作品であることは言うまでもない。